今回はベートーヴェンの面白&恐?!エピソードをご紹介します。 私がベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第7番 ヘ長調 作品59-1《ラズモフスキー第1番》を勉強していた時に、ドイツハノーファー音大の室内楽の教授に教えていただいたお話です。 ベートーヴェンの中期の弦楽四重奏曲は初期の作品と比べて内容が深く複雑になり、1806年に作曲された弦楽四重奏曲《ラズモフスキー第1番》はあらゆる弦楽四重奏曲の中でも最も演奏するのが難しいとも言われています。技術的に困難な箇所が多く含まれており、入念なリハーサルを行わずに完全に演奏することは不可能でした。あまりの難しさに当時初演を任されたバイオリン奏者がベートーヴェンに「これは演奏するには難しすぎます…」と嘆いたところ、彼はこう言い放ったそうです。 「私には腕のない哀れな奏者のことを考えて作曲する暇はない!私は私の魂に従って作曲しているのだ!!」…なんとも奏者に同情してしまいますね。 また、こんなエピソードもあります。1825年に作曲された弦楽四重奏曲 第12番 変ホ長調 作品127の初演が失敗に終わってしまったのですが、その原因を初演を担当した演奏者の練習不足と考えたベートーヴェンは、次のコンサートで演奏する弦楽四重奏団とこのような契約を交わします。 「コンサートに向けてのリハーサルは、作曲者立ち合いのもと、必ず10回は行うこと。」
ご存知の方も多いかもしれませんが、ベートーヴェンは20代後半から難聴に苦しみ、1800年頃にはもう彼の聴力はほとんど失われていたそうです。耳が聴こえないのにどうやってリハーサルに立ち会って演奏の良し悪しを判断したのでしょうか。
なんと彼は奏者4人の間、ど真ん中に座って、楽譜通りに演奏できているか目で見て厳しくチェックしていたのです!耳が聴こえなくても彼は偉大な作曲家。彼自身の中には完成された理想の音楽が鳴っていて、実際にちゃんと演奏されているかどうかなどは耳に頼らずともわかるのです。リハーサル中、間違って演奏した奏者の腕を掴んでは止めさせて、やり直させていたんだそうです。 想像して描いてみたらこんな絵が出来上がりました。
ベートーヴェンが隣に座って睨みをきかせていると想像するだけでとても怖いですが(笑)、どんなに素晴らしい作品でも演奏者の力不足ではその価値がなくなってしまうくらい、演奏者の腕にかかっているということを実感しました。私たちも演奏する時は常に「作曲家が精魂込めて作曲した作品を演奏しているんだ」という自覚と責任を持って取り組まないといけないなと改めて感じたエピソードでした。
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